SEWグローバル・ウォーター・ナビ 昨年の12月6日、国会で改正水道法が可決・成立した。高度経済成長を支え続けてきた日本の水道事業は、現在大きな岐路に立っている。具体的には①人口減少、節水器具による水道料金収入の減少、②昭和30年代から拡大、右肩上がりで布設された水道施設の老朽化の増大、③水道事業を支えてきた水道人材の減少、である。つまりカネ、モノ、ヒト無しの三重苦に直面している。これらを打破するために「水道法の改正」がなされ、その中心項目の一つが「適切な資産管理の推進」つまりアセットマネジメント(以下、AM)の推進である。1.水道事業の抱える課題 日本の水道は水道普及率98%、直飲率(全国どこでも蛇口から飲んでも健康に被害がでない率)100%と世界に誇れる実績を有している。しかし、その水道を支えてきた水道事業は大きな岐路に立っている。1) 人口減少や節水機器の普及による水道料金の減少 平成20年に全国の水道料金収入合計が約2兆5千億円あったのが、この10年間で約2千億円の減少、つまり毎年200億円が失われている。総務省の水道公営企業会計報告によると、全国の約三分の一の事業体において、給水原価が供給単価(販売価格)を上回っている。つまり3割の水道事業体は原価割35102030403040第1894号 令和 元年6月4日(火)発行 (出所:厚生労働省「水道事業におけるアセットマネジメント(資産管理)に関する手引き」)以上かかると想定されている。また地震対策としての水道施設の耐震化率は38.7%にとどまり、大規模災害時には、断水被害が長期化するリスクが増大している。老朽化した管路の取り換えには、平均して1kmあたり1~1.5億円かかる(実績参考値)とされ、その財源確保が難しい状況である。4)水道職員数の減少 職員数は約30年前、8万人いたが、最近では4万5千人に減少している。小規模で職員数が少ない水道事業者が非常に多い。数だけではない、質の低下も問題である。計画から施工まで担当してきた経験豊富なベテラン職員は退職期を迎え、その技術・ノウハウを伝承する相手がいないのが現状である。2.水道法の改正・概要 上記のような水道事業の課題を解決するために昨年12月に水道法の改正がなされた。その概要は①関係者の責務の明確化、②広域連携の推進、近隣自治体との水道施設の連携・統合の推進、③適切な資産管理の推進、つまりAMの推進である。④官民連携の推進、水道施設の運営権を民間事業者に設定できる仕組みの導入、これが先の国会審議を通じマスコミで大きな話題となったコンセッションの導入である(下水道情報第1891号掲載の本連載第47回で詳述)。第3種郵便物認可れで赤字経営となっている。2) 増加する浄水場数とその水道 平成27年度の全国の浄水場数は5751ヵ所であったが、翌平成28年度では6384ヵ所と633ヵ所の純増である。これは法改正による簡易水道事業の上水道事業への統合に伴う増加が主たる理由である。人口減少下であるが、逆に浄水場数は増加している、当然、その施設の稼働率は年々低下している。昭和40年度を起点(100%)とすると平成26年度では67%、最近では施設の稼働率は約60%となっている。経済原則からみても水道施設を減らし、その稼働率を上げなければ、どんな事業も成り立たないことは明白である。3)老朽化した施設の増加 水道資産の約7割は地下に埋設されている水道管路であり、その老朽化が著しい。 全国の水道管路の延べ長さ約66万kmのうち、耐用年数40年を経過した配管は約16%(地球2周半の長さ)である。その管路の更新率は0.75%であり、簡単に言うと、すべての管路を交換するには130年施設の稼働率の低下図1 AMの位置づけ吉村 和就[グローバルウォータ・ジャパン代表 国連環境アドバイザー]水道法改正とアセットマネジメント48
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