SEW 1) フランスの上下水道事業… グローバル・ウォーター・ナビ 昨年12月6日、水道法改正案が国会で可決・成立した。その前後において多くのマスコミは、水道法改正について「日本の水道を民間に任せて安全・安心を保てるのか?」「民営化すると水道料金は5倍になる!」とか「海外の水道民営化は失敗続きだ、なぜ日本は海外で失敗した民営化を導入するのか」などと報道し、ネガティブキャンペーンが横行した。TV番組等で必ず唱えられるフレーズは「この15年間で民間から官側に水道事業が変更された水道事業の再公営化は37ヵ国で235ケースに及んだ」である。英国の研究機関(PSIRU)が出しているレポートを引用しているものと思われるが、すべて全体数(母数)が述べられていない。つまり民営化反対論者にとり都合の良い数字のみを強調している。物事を的確に判断するためには、まずは事実を明らかにし、そのうえで日本水道の進むべき道を考えるべきである。1.水道法の改正と 水道事業再公営化論議~ 水道法改正案が国会で審議されているときに、特に関心が集中したのは、コンセッション方式(公設民営)に関する内容であった。法案では、コンセッション方式は第1891号 平成 31年4月23日(火)発行 官民連携の一つの選択肢であり、仮に採用する場合は国の許可や公の関与を強化した仕組みとされていた。コンセッション方式導入の是非についてはマスコミをはじめ、大きな議論が巻き起こった。特に海外事例が大きく取り上げられ、多くのマスコミは「海外では水道事業が再び公営化された」を大きく報じた。 このような報道で気にかかることは、すべての水道事業が再公営化(民から官へ)なのか、逆の動き(官から民営へ)はまったく存在しないのか、ということである。議論の過程では、これらの点について、まったく触れられなかった。ここでコンセッション方式の本場であるフランスの公的機関の統計的なデータや分析結果などを用いて客観的な立場で、各国の再公営化の動きとコンセッション方式の状況を考えてみたい。2.各国の水道事業再公営化の フランスの上下水道事業は、コミューンと呼ばれる地方自治体もしくは広域連合体が責任を負うことが法で定められている。3万5000を超えるコミューンが存在し、平均で数千人規模である。フランスの国土面積は日本の1.45倍だが、人口は6718万人で日本と比べ約半分である。フランス水道の民営化の歴史は、今から160年前まで遡るが、現在はどうなっているのか。 フランスの公的機関(ONEMA)の報告(2015年)などをもとに、上下水道の再公営化とコンセッション方式を含む民営化を比較してみる。① 水道事業の場合、コンセッションを含む民営化の割合は61%で官による直営が39%である(対象人口ベース)。【表1】② フランス国内では上下水道事業の再公営化が発生している一方で、逆にコンセッション化する事業も同数以上の件数で進行している。水道事業の場合、いずれも68件と同数である。下水道事業ではコンセッションから再公営化した事業数は80で、逆に公営からコンセッションに移行した事業数は150であり、コンセッション方式での下水道は70ヵ所が純増数である。つまり下水道ではさらに民営化が進行していると言える。【表2】③ フランス国内は約1万2000の水道事業、約1万5000の下水道事業が存在しているが、上下水道を合わせた総事業数に対して、再公営化またはコンセッション方式への移行件数は、数値で判断すると1%以下のごく一部で発生している事象である。単年度では総事業数に対しわずか0.09%の再公営化率である。④ フランスの上下水道の経営形態(2015年)を、二つの分類項目で比較すると、まず事業所数では公営が多数(69%)であるも第3種郵便物認可動き下水道は民営が増加吉村 和就[グローバルウォータ・ジャパン代表 国連環境アドバイザー]水道法改正と海外上下水道事業の再公営化~海外の再公営化率は1%以下である~47
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