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SEWグローバル・ウォーター・ナビ 巨大構築物を見るツアーが人気である。とりわけダムの人気は高く、自然に親しみながら家族で楽しめる社会インフラ施設の見学先でもある。ダム観光の代名詞である黒部ダムを抑えて人気第一位となっているのが神奈川県・宮ヶ瀬ダム、年間160万人の観光客を迎えている。都心から50kmという近さと定期的に観光放流している数少ないダムで、周辺には家族連れが楽しめる公園もあり自然に親しみレジャーもできる観光施設である。2001年に完成したこのダムは、最初から観光を意識して計画されたダムである。1.ダムの概要 宮ヶ瀬(みやがせ)ダムは、東丹沢・神奈川県の相模水系である中津川を堰き止めて2001(平成13)年3月に完成した重力式コンクリート・多目的ダムで、ダム湖は宮ヶ瀬湖と呼ばれている。 ダム本来の目的は、次の通りである。①洪水調節:大雨の時に一時的に水を貯留し中津川流域や相模川下流に暮らす人々の生命・財産を守る。②水環境の維持:河川の流量を保持し、流域の生態系を守る。③水道原水:神奈川県の水がめとして、横浜市や川崎市を含む県下16市5町に水道原水を供第1888号 平成 31年3月12日(火)発行 給、取水量は一日最大130万m3で神奈川県内人口の約90%に供給されている。④発電:宮ヶ瀬ダムの下流にある愛川第一発電所で、2万4200kW(最大出力時の水量は毎秒22m3)の発電を行い、さらに石小屋ダムの下流にある愛川第二発電所では、1200kW(最大出力時の水量は毎秒7m3)の発電を行っている。ここにも水の位置エネルギーを無駄にしない工夫がなされている。1)宮ヶ瀬ダムの諸元 ダムの形式は重力式コンクリートダムで堤高156m(重力式ダムでは国内第三位の高さ)、堤頂長375m、提体積は約200万m3であり、堰き止められて造られた宮ヶ瀬湖の総貯水容量は1億9300万m3である。◦選択取水設備 ダム放流の際に下流の自然環境に影響(水質・水温)を与えないようにダム湖内の適切な水深から取水する設備で、湖内水温は常に計測されている。◦ 洪水吐(こうずいばき)設備 洪水時の水量を調節する。主に高位常用洪水吐を使用し、洪水の規模により低位洪水吐、非常用洪水吐から追加して放流する。観光放流の時は、高位常用洪水吐(二本の放流管)から合わせて毎秒30m3の放流(日本最大の放流量、黒部ダムは毎秒10m3)。落差70mの放流水はダイナミックで、そのフォルムは翼を広げたようになり、多くの観光客を魅了している。2)ダムの特徴 宮ヶ瀬ダムの設計・建設にあたり、様々な工夫と対策が講じられた。計画的な周辺環境対策によって建設工事や、ダム開発による自然環境の保全はもちろんのこと、建設を合理的に進めるためにダンプ搭載型インクラインを開発したり新技術を採用したりし、コストと工期の縮減を実現した。特に約200万m3に及ぶ大量のコンクリートを効果的かつ経済的に施工するために、RCD(Roller Compacted Dam-Concrete Method)工法が採用された。当時の建設省が開発したダムの施工法で、セメントの量を抑えた超硬練りのコンクリートをブルドーザや振動ローラーで突きならし固める工法である。ダム第3種郵便物認可宮ヶ瀬ダム 観光放流中(毎秒30m3)吉村 和就[グローバルウォータ・ジャパン代表 国連環境アドバイザー]日本最大の観光ダム・宮ヶ瀬ダムに行こう46

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