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SEWグローバル・ウォーター・ナビ 米国フロリダ州で、過去10年間で最悪・最長の赤潮被害が発生した。イルカ、ウミガメ、マナティー、イルカなど数百tの海洋生物の死骸が回収された。米国海洋研究所でその詳細を調査中だが、この事態を受けて同州のリック・スコット知事は7つの郡に非常事態を宣言した(2018年8月)。現時点では赤潮が原因と推測されている。この赤潮は、メキシコ湾に生息する単細胞微生物「カレニア・ブレビス」によって引き起こされ、増殖中に強力な神経毒を水中や空気中に放出し、海洋生物だけではなく、頭痛や涙目、咳、喘息など海岸線の住民の健康にも影響を及ぼしている。1.神経毒を出す単細胞微生物「カレニア・ブレビス」 カレニア・ブレビスは海洋性の渦鞭毛藻類の一種であり、神経毒ブレベトキシンを出す有毒渦鞭毛藻である。単細胞の植物プランクトンで細胞の形状は扁平であり、2本の鞭毛により水中を回転しながら遊泳する。細胞内に葉緑体を持っており、光合成を行う独立栄養生物である。世界各地の沿岸域に分布し、日本近海でも確認されているが、特にメキシコ湾やフロリダ近海に多く存在している。大第1886号 平成 31年2月12日(火)発行 量発生した場合、その毒素により海洋生物や海鳥の大規模斃死を引き起こしている。 人間にとっても有害で、その神経毒は筋肉を異常に収縮させ、免疫システムに影響する。藻を取り込んだ魚を食べるのは危険で、通常の調理方法では解毒できない。さらに問題なのは、この生体毒ブレベトキシンは煙霧質化し易く、波が藻を分解するので、藻の毒が空気中に放出される。それを吸うと呼吸器系に影響を与え、目、鼻、のどがヒリヒリ、チクチクしたり、咳が出たり呼吸がゼイゼイしたりしてくるなど、人への健康被害をもたらしている。州政府は海岸に近寄らないよう警告している。さらに最近の研究によると、カレニア・ブレビスだけではなく、有毒な藻類「シアノバクテリア」も増単細胞微生物「カレニア・ブレビス」(出所:Florida Fish and Wildlife Conservation Commission)殖しており、これらも複合汚染を助長しているかもしれないと専門家らが指摘している。2.海洋生物被害 あまりにも生物被害が多く、フロリダ西海岸線は悪臭で充満している。特に海の人気者とされているマナティーの死亡数は、フロリダ州野生生物保護局によると過去最高であった2010年の766頭を超えることが予想されている。3.観光業に大きな打撃 通常ならフロリダ州は、ディズニー・ワールド、ユニバーサルスタジオ、200を超えるゴルフ場、素晴らしい眺めを楽しめるサラソタ湾などの観光客で賑わいを見せ、2017年は米国一位の観光客数(約7200万人)を誇った。 しかし2018年の夏は、同州西海岸は腐ったような臭気に悩まされた。赤潮ニュースが広がったことで、予約をキャンセル、予定を変更する観光客が多くなり、その影響は当分続きそうだと懸念されている。州当局は海岸に続く道の何百箇所にも「健康への被害」の警告板を立て、海に近づかないよう警告している。2018年8月、延べ320kmの海岸線に押し寄せた赤潮(出所:アメリカ海洋大気庁(NOAA))第3種郵便物認可吉村 和就[グローバルウォータ・ジャパン代表 国連環境アドバイザー]~下水処理不備も一因か~45米国フロリダで「過去10年で最悪」の赤潮被害

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