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SEWグローバル・ウォーター・ナビ 水道法の改正案が国会で怒涛の中で可決・成立した(平成30年12月6日)。 国会の審議中、多くのマスコミが、法案で問題になっている官民連携とくにコンセッション問題を特番で流した。「日本を外資に売り渡す暴挙」、「民営化すると水道料金は5倍にも!」と水をめぐるデマと陰謀説が湧水のごとく流され、誤解に基づく報道が続く中、筆者はNHKと民報各社から、請われるままに「できるだけ丁寧に数値をもって冷静に説明」し、その結果25件のマスコミに出演(うち7件は生放送)したが、最初から色眼鏡(民営化すると大変だ、阻止せよ)で見ている一部マスコミの報道姿勢は変わらなかった。ここに水道民営化の報道について紹介する。以下はすべてのマスコミ取材や生出演で筆者が説明した内容である。1.水道制度の現状認識と法改正の背景1)日本水道の現状認識 日本の水道普及率は98%、国連加盟国193ヵ国で蛇口から飲める水道は、わずか16ヵ国、世界でもっとも安全安心な日本水道だ。 しかし、日本水道の実態は次の通りである。第1884号 平成 31年1月1日(火)発行  ①人口減少、節水機器の普及で料金収入の減少(この10年で2千億円減少)……水道事業の有利子負債(借金)8兆円、年間の水道料金収入2兆3千億円で、年々借金が積みあがっている。全国の水道事業体1381の3割が赤字(赤字分は一般会計から繰り入れ)で水道なのに「火の車」状態である。 ②水道施設の老朽化の加速、耐震化、大災害への対策で多額な費用捻出が必要である。 ③水道技術者の高齢化、定年退職者の増加(30年前8万人、現在4.5万人以下に)……水道は地域特有の条件があり(水源、気候、人口、産業、水需要など)、いわば経験工学の集大成であり、地域に密着したベテラン技術者がいなくなることは、技術・ノウハウの伝承ができなくなる弊害をもたらしている。「100年水道を考えるならコストカットより人材育成が急務」である。このままでは「官・民、誰がやっても水道料金2~3倍の値上げが必要」である。2)なぜ法改正が必要になったか 三重苦(カネ、モノ、ヒトなし)を乗り越えるために、新しい概念が必要である。今回の改正法案の骨子は3点である。①適切な資産管理 足元の財政状況、今後の料金収入、老朽化対策費用を調査、対策をすること。②統合・広域連携を推進せよ 地方自治体同士、連携し水道事業の効率化、コスト低減を目指せ。具体的には近隣自治体と連携し水道事業の規模の拡大(都道府県単位まで)を図り、薬品や消耗品の購入、水質検査の効率化などを図りコスト削減を目指すものである。規模の経済を求めるなら、給水人口は多い方が望ましい(すでに香川県、宮城県、奈良県などが1県1水道を検討中)。③官民連携を推進せよ (オプションとして選択肢の一つ) 官民連携の一つの例としてコンセッション方式が提案されたが、これはあくまでも「自治体が採用するかしないか、オプションの選択肢の一つに過ぎない」のだが、多くのマスコミでは「この法案が可決すると、明日から全国民の水道が民営化される」と、誤った報道がなされた。決して「完全民営化ではないと繰り返し説明」したがほとんど無視された。2.コンセッション方式導入の是非 民間は儲からないことはやらない。そういう意味で、コンセッションが成立する都市の規模は人口30万人以上で中核都市以上が市場である。初めに述べたように、「やるかやらないかは自治体のチョイス」である。番組で筆者は「コンセッションは民営化ではない」と繰り返し主張したが、ネット上での筆者への書き込みでは「水道料金の値上げをたくらむ国賊!」とか「民営化ではないと、言い切る安倍総理の代弁者」、「霞が関の回し者だ」など、さんざんに書かれている。第3種郵便物認可吉村 和就[グローバルウォータ・ジャパン代表 国連環境アドバイザー]水道法改正と「残念な」マスコミ報道44

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