SEWグローバル・ウォーター・ナビ 今国会で「改正水道法案」が審議されている。その焦点は①広域連携の推進、②官民連携の推進、③適切な資産管理であり、問題となっているのは②官民連携で市町村が民間企業に運営権を設定できる仕組みの導入であり、いわゆるコンセッション(公設民営)が中心である。コンセッションとは料金徴収を伴う公的施設「高速道路、空港、上下水道など」について、所有権を公的機関に残したまま、事業運営を民間事業者に付与するスキームのことである。民間資金を活用して水道事業を運営することになるため、水道民営化の先鋒とみられており、改正水道法案について「賛成派と絶対反対派の主張」で話題が沸騰している。では、国レベルで上下水道民営化を進めて29年経過した英国は、その後どうなっているか。最新情報から、今後迎えるだろう「日本の水道民営化問題」について俯瞰してみたい。1.英国の上下水道民営化 1989年サッチャー政権は電力、通信、上下水道の民営化を積極的に進めた。英国(イングランド・ウェールズ地域)の水事業は10の上下水道会社および12の水道会社の計22の民営事業会社により行われた。サッチャー政権は民営化に第1882号 平成 30年12月4日(火)発行 取り組む際「民間会社は当然利益を追求しサービス低下や料金値上げを招く」として、その懸念に歯止めをかける仕組みを整えた。2.民間水道事業者への監督機 22の民間事業会社に対し規制を行うのが①「OFWAT・水道事業規制局」オフワット、②DWI(飲料水質監督局)は水質について事業体を監督し規制する役割、③CC・Water(水道顧客審議会)は水道使用者の声を代表する機関で、苦情を集約し事業会社に伝達し、苦情の70%を20日以内に、85%を40日以内に処理解決する役割を担っている。なかでもOFWATの役割が注目された。OFWAT設立時の職員数は約200名で水道会社に対する経済的な規制機関である。その権限は料金の設定上限(プライスキャップ)の策定、事業計画の予算査定と評価、パフォーマンスの評価(決算評定)、事業ライセンスの認定、競争性の確保と多岐にわたっている。 監督機関として完璧と思われたOFWATだが、設立当初からその動きは悪く、英国議会からたびたび指導勧告を受けていた。例えば2007年、英国下院の傘下にある公共会計委員会はOFWATに「指導勧告」を行った。民間事業者で最大のテムズウォーター(ロンドン広域圏で事業)に対し「OFWATは監督指導の権限を果たしていない、怠慢である」と糾弾されていた。具体的にはテムズ社は①水道メーターの設置を積極的に進めていない、②2000年以後、漏水対策の目標を一度も達成していない、③水使用量データは信頼できないがOFWATは改善策を求めていない。また勧告している英国議会自身もEU本部(EU裁判所)から「OFWATへの管理監督不行き届き」でEU指令に基づき改善指導命令を受けていた(2012年)。第3種郵便物認可英国の民営化水道事業の枠組み関と仕組み吉村 和就[グローバルウォータ・ジャパン代表 国連環境アドバイザー]英国・テムズウォーター社漏水率改善未達で罰金180億円43
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