EWSグローバル・ウォーター・ナビ 水道事業の民営化がグローバルに始まったのは1980年代後半からである。90年代から2000年の間に旧共産圏やラテンアメリカをはじめ世界中で水道の民営化が実施された。しかし2000年代に入り民営化水道は様々な問題を引き起こし、最近の調査では、世界37ヵ国で民営化された235の水道事業が再公営化(民から官へ)されている。日本でも改正水道法案(広域化、官民連携など)が再上程されようとしている。グローバルな水道民営化の流れを俯瞰し、将来の日本の水道事業の姿を模索してみたい。1.世界の水道、民営化の流れ 水道事業の民営化がグローバルに始まったのは1980年代後半からである。イギリスのサッチャー政権やアメリカのレーガン政権が、あらゆる分野の規制緩和や国営・公営企業の民営化を推進し、水道事業もその政策の一部であった。1) なぜ水道の民営化が加速されたのか その背景は世界銀行(WB)や国際通貨基金(IMF)などの国際機関が「ワシントン・コンセンサス」と呼ばれる政策合意(金融・貿易の自由化、規制緩和、国営企業の民営化など)に基づいて国営企業第3種郵便物認可 の民営化に資金を提供したことであった。単純に言うと「水道事業を民営化しなければ、資金を提供しない」方針であった。2000年代の初め途上国は人口の増加、経済の急速な発展に直面し、他のインフラ(通信、道路、港湾、鉄道など)への投資が最優先であり、水道事業には、カネもヒトも割けない状態であり、まさに世銀やIMFの推進する「国営企業などの民営化方針」は途上国にとり渡りに船の状態であった。また先進国は財政赤字立て直し(官から民へ)、施設の老朽化対策などが急務であった。2)水道民営化の主役は 90年代から活躍した欧州の3企業はフランス系のスエズグループ、ヴェオリア社さらにイギリスのテムズウォーター社であり、彼らは水メジャー(ウォーターバロン)と呼ばれグローバルに水道民営化を開拓し、2000年当時は、世界の民営化された水道の約7割を担っていた。スエズ、ヴェオリア社とも水事業の売り上げは1兆円をはるかに超えていた。なぜフランス勢が強いのか。フランスは、全国各地に小都市が多く160年程前から、小規模の水道事業は地元民間企業が経営してきた歴史がある。それらの民間水道事業者を第1864号 平成 30年3月27日(火)発行次々と買収し総合力を持ったのがスエズ、ヴェオリア社であり、その経営ノウハウを持ってグローバル展開を行った。世界市場はもちろん、2010年時点で地元フランス水道の71%、下水道の55%が民間で運営(コンセッション方式)されている。3) 世界で水道事業の再公営化が加速 世界の民営化水道の実態を調査しているPSIRU(公共サービスリサーチ連合)によると、2000年から2015年3月末までの15年間に「世界37ヵ国で民営化された235水道事業が再公営化された」と公表している。再公営化の流れは資金不足の途上国だけではなく、先進国でも確認されている。先進国で水道事業を再公営化した大都市は、パリ(フランス)、ベルリン(ドイツ)、アトランタ、インディアナポリス(アメリカ)などで、途上国ではブエノスアイレス(アルゼンチン)、ラパス(ボリビア)、ヨハネスブルグ(南アフリカ)、クアラルンプール(マレーシア)などがある。(1)共通する再公営化の理由 なぜ再公営化するのか、そこには共通した理由が存在する。◦ 事業コストと料金値上げを巡る対立(インディアナポリス、マプート他)◦ 投資の不足(ベルリン、ブエノスアイレス)◦ 水道料金の高騰(ベルリン、クアラルンプール)◦ 人員削減と劣悪なサービス体制(アトランタ、インディアナポリス)◦ 財務の透明性の欠如(グルノーブル、ベルリン、パリ)◦ 民間事業者への監督の困難さ(ア吉村 和就[グローバルウォータ・ジャパン代表 国連環境アドバイザー]35世界の民営化水道235事業が再公営化に
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